AI GPUモジュールのパワー密度上昇により、各発熱源がそれぞれの熱設計限界に迫っている
AIサーバー用GPUモジュールは、実際には複数の独立した発熱源から構成される複合システムです。GPU演算ダイそのもの、パッケージ内部または近接して積層されるHBM(高帯域幅メモリ)、基板レベルの電源供給を担うVRM(電圧レギュレータモジュール)、そしてGPUと近いパッケージ構造を持つAI Acceleratorです。これらのコンポーネントは、それぞれ放熱経路、パッケージ方式、熱設計上の制約が異なりますが、同一モジュールのパワー密度上昇曲線という共通の圧力を受けています。GPUダイおよびパッケージ内のHBMスタックはいずれも、チップレベルのサーマルインターフェース材料(TIM-1、すなわちダイとベーパーチャンバー/コールドプレートの間の接合材)を通じて熱を排出する必要があり、この材料の信頼性が、チップが安全な接合部温度範囲内で動作できるかどうかを直接左右します。
本記事ではまず、AI GPUモジュール内の主要な発熱源がそれぞれ直面する放熱課題を概観し、システム全体の課題を理解するための背景として整理します。続いて、GPU自体のチップレベルTIMという具体的なテーマに焦点を当て、従来型サーマルグリスの既知の限界、そしてLiPOLY PCM900相変化材料の技術仕様と信頼性データについて解説します。
AI GPUモジュール内の主要な発熱源とそれぞれの放熱課題
TIM材料について論じる前に、モジュール内部の主要な発熱源がそれぞれどのような状況に置かれているかを整理しておくことは、なぜ放熱設計がAIサーバー全体のアーキテクチャにおける中核的な変数となっているのかを理解する助けとなります。
- GPU演算ダイ:AIサーバー用GPUの動作パターンは従来型データセンターのワークロードとは異なり、モデルトレーニング中は数日間にわたって連続的にほぼフルロードで稼働することが多く、チップの接合部温度は長時間にわたり高い水準で推移します。
- HBM(高帯域幅メモリ):GPUとHBMの3D積層統合が進むにつれ、垂直方向の熱抵抗が新たな課題となっています。ベルギーの半導体研究機関imecが2025年のIEEE IEDM(国際電子デバイス会議)で発表した研究によると、3D HBM-on-GPUアーキテクチャにおいて放熱最適化を一切行わない場合、AIトレーニング負荷下でのGPUピーク温度は141.7°Cに達し、動作可能範囲を大きく超えてしまいます。技術レベルおよびシステムレベルでの協調的な最適化を行って初めて、ピーク温度を現行の2.5D統合方式と同等の70.8°Cまで引き下げることができます。これは、HBMの放熱ボトルネックが主にパッケージアーキテクチャそのものに起因する垂直方向の熱抵抗によるものであり、パッケージおよびシステムレベルの課題であることを示しています。
- VRM(電圧レギュレータモジュール):AI GPUモジュールの基板レベルの電源供給設計もまた、大電流下での放熱問題への対応が必要です。業界の技術分析によれば、VRM回路のPCB設計(厚銅電源プレーン、低インダクタンス配線、高密度デカップリングコンデンサアレイ)はGPU基板設計において最も厳しい要件の一つであり、放熱能力と電流容量を同時に考慮する必要があります。
- AI Accelerator:GPUであれ他のアーキテクチャのAI Acceleratorであれ、そのチップパッケージ構造はGPUと類似しており、同様に演算ダイ、メモリスタック、電源管理IC、およびチップレベルのサーマルインターフェース材料で構成されるため、直面する放熱課題もGPUと高い共通性を持ちます。
以上の4種類のコンポーネントは、AI GPUモジュール全体の放熱課題を構成する一方で、それぞれの接合材選定における考慮事項は異なります(例えばHBMのパッケージ構造やVRMの基板レベルの放熱経路は、いずれもGPUチップレベルTIMの適用状況とは異なります)。本記事では以降、GPU自体のチップレベルTIM(TIM-1)という具体的なテーマに焦点を当てます。
チップレベルTIM劣化がもたらす実際の影響:スロットリングと性能低下
チップレベルTIMの熱抵抗が使用時間の経過とともに劣化した場合、その影響は単に温度数値の上昇にとどまらず、GPUの演算性能に直接反映されます。業界分析によると、ハイエンドGPUの接合部温度が85~90°Cという臨界しきい値に達すると、ハードウェアはサーマルスロットリングを起動し、チップの損傷を防ぐために自動的にクロック周波数を低下させます。スロットリング状態で稼働するクラスターは、理論上の最大性能の最大25%を失う可能性があり、数週間にわたる大規模言語モデルのトレーニングタスクにおいては、実質的な演算時間とコストの増加を意味します。学術研究も具体的な定量データを示しています。大規模トレーニングクラスターのヘルスマネジメントを扱ったある論文では、GPU温度が50°Cから77°Cに上昇すると、コアクロックが1.93 GHzから1.38 GHzに低下し得ることが指摘されており、同期に敏感なトレーニングステップに明らかな遅延をもたらします。これらのデータは、GPU接合部温度と性能の間に見られる業界全般の傾向を反映したものであり、特定のTIM材料の実測結果ではありませんが、チップレベルTIMの信頼性が単なるスペック比較ではなく、設計上正面から向き合うべき変数である理由を示しています。
チップレベルTIM用途における従来型サーマルグリスの既知の限界
従来型サーマルグリスは長らくチップレベルTIMの主流選択肢であり、初期熱抵抗が低く施工しやすいという利点を備えています。しかし学術文献の比較研究によれば、サーマルグリスは長期の熱サイクルおよびパワーサイクルの下で、ドライアウト、ポンプアウト、ボイド(空隙)の増加といった劣化現象を起こしやすく、これらの現象は時間の経過とともに接合部熱抵抗を上昇させます。相変化材料(PCM)は、塗布・乾燥工程そのものが不要であるため、ボイド、ポンプアウト、界面剥離といった問題が起こりにくいという特徴があります。
相変化材料はこの課題にどう応えるのか:動作原理と物理的根拠
相変化材料は常温では固体状態を保つため、自動組立ならびに輸送・保管の取り扱いが容易です。温度が相変化点を超えて上昇すると半固体状態に軟化し、発熱源と放熱器の間にある微細な表面凹凸に流動的に追従することで、接合部熱抵抗を低下させます。接合部熱抵抗はおおむねR≈BLT÷kという関係式で理解できます。ここでBLT(ボンドラインシックネス、接合材の厚さ)は材料が実際に貼合された後の厚さ、kは材料の熱伝導率を指し、kの値が一定であれば、BLTが薄いほど接合部熱抵抗は低くなります。これが、チップレベルTIM材料の仕様において「最小BLTがどこまで薄くできるか」が特に重視され、熱伝導率の数値のみが比較されるわけではない理由です。ダイとベーパーチャンバーの間がわずか数十マイクロメートルしかないチップレベル用途においては、材料が十分に薄いBLTで追従できるかどうかが、単純な高熱伝導率よりも最終的な熱抵抗性能に直接的な影響を与えることが多いのです。
なお、学術文献では、より高い熱伝導率を追求してフィラー充填量を大幅に増やした相変化材料は、漏れや機械的破損のリスクが高まる可能性があることも指摘されています。これは相変化材料というカテゴリー全体に共通する一般的な技術課題であり、特定製品の実測結果ではありません。本記事ではあくまで背景情報として取り上げるものであり、製品選定にあたっては個別製品の信頼性試験データを基準とすべきです。
PCM900技術仕様の解説
LiPOLY PCM900は、チップレベル用途向けに設計された相変化材料です。常温では固体状態を保つため自動組立が容易であり、約45°Cの相変化点まで加熱すると軟化して密着します。以下はカタログに公開されている技術仕様です。
| 項目 | 数値 | 試験方法 |
|---|---|---|
| 熱伝導率 | 9.0 W/m·K | ASTM D5470 |
| 相変化温度 | 45°C | – |
| 最小ボンドラインシックネス(BLT) | 24 µm | – |
| 使用温度範囲 | -60~150°C | – |
| 比重 | 2.70 g/cm³ | ASTM D792 |
| 表面/体積抵抗率 | >10¹² Ohm/Ohm·m | ASTM D257 |
よくあるご質問
Q1:PCM900は従来型サーマルグリスと比べて、どのような優位性がありますか?
PCM900は常温で固体状態を保つため、自動実装工程にそのまま投入でき、従来型サーマルグリスに必要な塗布・脱泡・乾燥といった工程が不要です。学術比較研究では、相変化材料は塗布・乾燥プロセスを経ないため、従来型サーマルグリスに見られがちな長期的なドライアウトやポンプアウトといった劣化現象が起こりにくいことが指摘されています。
Q2:45°Cという相変化温度は、実務上どのような意味を持ちますか?
PCM900は45°C未満では固体状態を保つため、裁断・輸送・自動実装が容易です。チップが動作を開始し、接合部温度が45°Cを超えて上昇すると、材料が軟化し、発熱源とベーパーチャンバーの間の微細な表面凹凸に流動的に追従して、カタログに記載された最小24µmのボンドラインシックネス(BLT)を実現します。これにより、組立のしやすさと低い接触熱抵抗を両立します。
Q3:PCM900の信頼性は長期試験によって検証されていますか?
はい。カタログでは、熱老化試験(125°C)、高温高湿試験(85°C/85%RH HAST)、冷熱衝撃試験(-40~125°C)、低温試験(-60°C)の計4項目の信頼性試験結果が示されており、試験時間は最長1,000時間または500サイクルに及びます。いずれの試験でも熱抵抗の変化幅は初期値のおよそ1割程度に収まっており、長時間の熱応力条件下でも安定した界面性能を維持することが確認されています。
Q4:PCM900はどのような用途に適していますか?
カタログの「製品アプリケーション」区分によると、PCM900はAI/HPC(高性能計算):AIサーバー、GPU、データセンター:サーバー、ネットワーク通信機器、コンシューマー電子機器:PC、SSD、ゲーム機、電源関連:電源モジュール、電源装置、車載電子機器:ECU、BMS、OBCなど多様な用途に適しており、0.15mm、0.20mm、0.25mmの3種類の厚さ規格を用途に応じて選択できます。
LiPOLY PCM900 製品概要
チップレベル用途向けに設計された高性能相変化熱伝導シートで、熱伝導率9.0 W/m·K、相変化温度45°Cを備え、AIサーバー、GPUなどのAI/HPC用途に適しています。0.15mm、0.20mm、0.25mmの3種類の厚さ規格を用意しており、ロール状、シート状、または打ち抜き加工(ダイカット)などの形態でご提供可能です。
参考文献
- NextPCB. “What Is an AI Server? Architecture, Components & PCB Requirements.”
- NextPCB. “GPU Rack Architecture: How AI Clusters Are Built from PCB to Rack.”
- imec. “Imec Mitigates Thermal Bottleneck in 3D HBM-on-GPU Architectures.” Presented at IEEE International Electron Devices Meeting (IEDM), 2025.
- TechRound. “The Hidden Bottleneck of the AI Boom: Why Thermal Throttling Is Slowing Down Your GPUs.”
- arXiv. “Guard: Scalable Straggler Detection and Node Health Management for Large-Scale Training.”
- IEEE Xplore. “A Comparison Study of TIM Degradation of Phase Change Material and Thermal Grease.”
- ScienceDirect. “Synergistically Reinforced Phase Change Thermal Interface Materials for High-Power Electronics: Low Resistance and Long-Term Reliability.”
- LiPOLY Ultra3065 製品データシート(中国語・英語・日本語版)— 社内仕様資料
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